大判例

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名古屋高等裁判所 平成元年(行コ)2号 判決

愛知県岡崎市大平町字西上野八〇番地

控訴人

大山寛治こと李重學

右訴訟代理人弁護士

杉山忠三

愛知県岡崎市明大寺本町一丁目四六番地

被控訴人

岡崎税務署長 横山明

右指定代理人

木田正春

横山恒致

金川裕充

間瀬暢宏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和五九年二月二七日付でした控訴人の昭和五四年分所得税の更正のうち、分離短期譲渡所得金六二九万六八三五円、納付すべき税額金二四一万八〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(ただし、いずれも異義決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨。

二  当事者の主張

当事者双方の事実上、法律上の主張は、左に付加訂正するほかは原判決事実第二に記載されたとおり(原判決二丁表五行目冒頭から一五丁裏九行目末尾まで)であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決八丁裏三行目「〈1〉の事実は認める。」の次へ「ただし、控訴人は、名古屋地方裁判所岡崎支部昭和四三年(C)第七六号不動産競売事件において、本件土地を金一二六万五〇〇〇円で競落し、昭和四四年三月一三日その競落許可決定を得たものである。被控訴人主張の訴外角谷豊春から昭和四四年三月二四日、七八三万〇九二五円で本件土地を取得した事実はない。」と加える。

2  原判決一三丁裏六行目と七行目の間に行を改めて次のように加える。

「4 争点についての控訴人のまとめ

本件における争点は、結局本件土地の売買代金として、昭和五四年八月二七日に控訴人が訴外金庫本店において矢頭から受領した額が一二〇〇万円であるか、被控訴人主張の三〇〇〇万円であるかの点であるが、(一)控訴人が本件土地を取得したのは不動産競売事件の競落許可によってであり、競落代金は一二六万五〇〇〇円、許可決定のあったのは昭和四四年三月であったから、本件売買価格が三三〇〇万円というのは、実に二六倍であり、右の時期にこのような異常な高騰はあり得ない。(二)控訴人が八月二七日本店において、現金で三〇〇〇万円を矢頭から受領し、これを深見に直ちに交付したとの的確な証拠はない。(三)当日までに矢頭が買主から受領していた売買代金は手付金二〇〇万円のみであったから、三〇〇〇万円もの現金を矢頭が立替えて控訴人に支払うことは、矢頭の資力からみて到底不可能である。(四)矢頭が、大橋文雄に右三〇〇〇万円を立替えて貰ったとの証拠も全くない。(五)八月二七日に控訴人が矢頭から受領した金員が一二〇〇万円であったことは、乙第一八号証(裁決書)における矢頭の答え述とも符号する。(六)本件土地の所有権移転登記手続は、右授受の翌日である八月二八日に買受人に対しなされているが、矢頭からすれば多額の立替金があるはずであるのに、その回収の危険が増大するようなことをするのは不合理である。(七)当時、控訴人は韓国から運びこんでいた多額の現金があり、当日直ちに一七四六万円を北村一郎名義の口座へ入金することが可能であった。等の点から被控訴人主張の右当日三〇〇〇万円の受領はあり得ない。」

3  原判決一四丁裏二行目「同3」を「同34」と訂正する。

三  証拠

本件記録中の原審及び当審における各書証目録、証人等目録に記載されたとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、本件更正処分に控訴人の昭和五四年分の分離短期譲渡所得金額を過大に認定した違法はなく、また重加算税の賦課決定にも違法はないから、結局本件処分には違法はないものと判断する。

従って控訴人の本訴請求は理由がないが、その理由は、左に付加訂正するほかは原判決理由(一六丁表三行目から二九丁裏一行目まで)の認定説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一六丁裏三行目「取得費として」から同四行目「支払った」までを「取得価額として」と訂正し、同八行目「五円」の次に「の取得費」を加える。

2  原判決一八丁表二行目「甲第三号証の一、」の次へ「甲第二一号証の一ないし三、甲第二四号証、」を、同三行目「争いのない」の次へ「甲第二三号証の一、二」を加え、同裏六行目「原告本人尋問」を「当審証人鈴木登の証言、原審および当審における控訴人本人尋問」と訂正する。

3  原判決一八丁裏九行目「原告は、」から一〇行目「競落したが、」までを「控訴人は、豊田市大字四郷字西山六番の一一六山林一七〇五平方メートル(後に本件土地および豊田市四郷町西山九七番三の土地合計三筆に分筆)を名古屋地方裁判所岡崎支部昭和四三年(C)第七六号不動産競売事件の競落許可決定により、競売代金一二六万五〇〇〇円を納付して昭和四四年四月一四日これを取得したが、その他訴外角谷豊春に支払った六五〇万円、取得に伴う諸雑費合計六万五九二五円も本件土地に係る取得価額として認められたので、結局分離短期譲渡所得金額算定の上で控除の対象となる取得価額は、合計金七八三万〇九二五円となった(控訴人は申告に際し、右金額を経費として自主的に申告し、被控訴人も本来取得価額として認め得ない訴外角谷への支払金六五〇万円を是認したので、取得価額は右金額として当事者間に争いのないものとなった)。右競落により取得した土地の一部である本件土地を控訴人は、」と改める。

4  原判決二一丁裏九行目「前記のとおり、」から二二丁表二行目「であるし、」までを削除し、同四行目「本件土地の形状等や固定資産評価額に」を「本件土地が市街化調整区域内の山林で、しかも砂防地域内に位置すること、平成二年度の本件土地の固定資産税課税台帳上の評価額は五万二七八〇円にすぎないこと、騰貴率が異常に高率であるとの各点に」と改める。

5  原判決二二丁裏九行目「と認定する」以下二三丁表一行目「一部と」までを「か、控訴人が同月二七日に本店で受領した本件土地売買代金の残額が一二〇〇万円であるか、三〇〇〇万円であるかによって、被控訴人の本件更正処分の適法性が認められるところ、以下(1)ないし(4)記載の理由により、当日本店において控訴人が矢頭から受領した残代金は三〇〇〇万円であり、北村口座への入金一七四六万円はその一部と」と改める。

6  原判決二三丁表一〇行目「本件土地売買残代金」から同裏六行目「るに足りない。」までを「これに弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第二五号証によれば、仲介手数料は三三〇〇万円の三パーセントにあたる九九万円を控訴人が平松に対し支払う約束となっていたこと、甲第四号証の一の仲介手数料四五万円の記載は、甲第一号証の一、二の裏契約に係る売買契約書の代金合計一五〇〇万円に符合させるため、その三パーセントにあたる四五万円を記載したものであることがそれぞれ認められることに照らすと、結局控訴人は八月二七日午後三時までに本店において、深見に対し入金指示をした前記二口の合計二二〇一万円、債務弁済金七〇〇万円、平松に支払うべき仲介手数料九九万円の合計金三〇〇〇万円の現金を矢頭から受領したものと推認するのが最も合理的であるといえる。そして更に、前掲乙第一〇号証及び深見証言によれば、本店での受渡は午後一時すぎから行われたものであること、北村口座への一七四六万円の入金指示は、定期預金四五五万円、手形貸付債務への弁済七〇〇万円の指示と同時に、控訴人から深見になされ、控訴人が一旦帰宅したうえ現金を別に持って来店したものを後刻入金した形跡はないことが認められるから、これに反する原審及び当審の控訴人の供述は採用できず、原告の反論2(四)、4(七)の主張を認めることはできない。」と改める。

7  原判決二四丁裏六行目「の存しないこと、」の次へ「控訴人が右売却代金八〇〇〇万ウォンを釜山銀行に預け、これを米ドル紙幣に交換して日本へ持ち込んだとする甲第一四号証の一乃至六、第一五号証は、昭和五六年(一九八一年)一〇月以降の定期預金証書あるいは普通預金証書であって、昭和五四年八月以前に同銀行へ八〇〇〇万ウォン以上の売却金を預け入れた旨の主張事実を裏付けるに足る的確な証拠といえず、他にこの点を認定できる資料は提出されていないこと、」を加える。

8  原判決二六丁表五行目「原告本人尋問」から同裏五行目末尾までを「弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第二五乃至二七号証によれば、本件土地売買には金融業者である愛三商工株式会社の大橋文雄が矢頭に対する資金面で関与し、大橋は矢頭に対し、八月二七日以前に売買残代金を融資し、同日不足していた二〇〇万円の送金分(前認定2(一)(6))を含め合計三〇〇〇万円を貸付け、矢頭はこの三〇〇〇万円を本件売買の残代金として右日時に控訴人に対し支払ったこと、八月二七日当時、矢頭は既に清水及び松原から手付金二〇〇万円を受領しており(前認定2(一)(5))、残代金の支払が確実であると思っていたため、翌八月二八日同人らに対し、所有権移転登記手続を行ったものであることが認められ、これと対比すれば、乙第一八号証の前記記載部分は採用できず、右認定に反する当審証人鈴木登の証言は借信できない。結局控訴人の反論2、同4(三)乃至(六)は理由がない。なお、前掲乙第二五号証乃至二七号証は、名古屋地方裁判所岡崎支部平成元年(ワ)第一三〇号事件の被告本人矢頭一弓の本人調書の写しであるが、同事件について第三者である名古屋法務局長が官庁間の共助により同裁判所岡崎支部長に当該記録の閲覧・謄写の許可申請をしたうえ、謄写したものであることが弁論の全趣旨により認められ、控訴人主張のような違法な経路で入手したものではないし、民事訴訟上証拠能力の欠缺による証拠排除の考え方はないから、信用力の問題として考慮すれば足りるものと解せられる。」と改める。

二  以上の次第で、控訴人の本訴各請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。

よって本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 水野祐一 裁判官 喜多村治雄)

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